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戸惑い〜未来を見据える目・月を見つめる刃〜     by由弥


戸惑いは、不意をついて舞い込んで来る。
暢気に茶を啜る「ふかふか商会」にも…ソレは例外ではなかった。

「前に延の港街で、ちょっとした乱があったろ?その功績を受けて、
中心人物の商店主が、官に召し上げられるらしいぞ」
茶でたぷたぷになった真っ黒な腹を、ぽむぽむと叩きながら
狸が思い出したように話出した。
「へー、そうなんだ。えっらい出世じゃん。」
「俺は、もともと部長職で偉いけどな。」
「そう言う事ではないですぅ」
一緒に茶を啜っていた、オカピや、クリーム色の被毛の猫、真っ白な兎が
口々に話の輪に入った。
「それでな…」
「へー」
「ほー」
「ふーん」
茶飲み話は、色々と花が咲いているようだ。

「何々、どうしたのよ?」
丁度そこに、模様替えの相談をしていた元締め・真勇と職人・由弥が顔を出した。
真勇から、色々と注文を受けたらしく…由弥は、どさっと椅子に座りこむと、
机に突っ伏していた。
一方の真勇の方は…話に興味津々である。若い娘さんは、話好きだから…。
狸は、繰り返すのが、ちょっとめんどくさくなったのでかいつまんで話した。
「いや、新しく民から官に召し上げられたって話」
「へー、ドコの話よ?」
話好きな若い娘さんが、そんな投げやりな説明で納得する筈もなく…
哀れ、狸は…もう一度、最初から説明する事と、あいなった。
『え…延の港街…?乱…商店主…??』
机に突っ伏していた由弥も、その単語に聞き覚えを感じ、耳だけそちらに向けていた。

「たしか…名前は……仁……仁なんとかだったはずだぞ。」
ぴくんっっ!!
由弥は、耳と一緒に短い尻尾まで逆立てていた。
『官に…なるんだ…。あのばーちゃん、嬉しいだろうなぁ…』
何故か、嬉しい筈なのに、胸の奥がちくんっと痛むプレーリーだった。


一方、延の港街では…
噂の主の所に、延王からの使者が書を持って、尋ねてきていた。
「そなたの功績を証とし、官に召し上げる」
「アレは、私だけの力ではございません。ご寛恕下さい」
店の外には、野次馬がひしめき合い、騒然としている。
使者は、困ったように話を続けた。
「その事は、延王も分かっていらっしゃる。だが、その人々を纏め上げる力が
欲しいのだそうだ。…受けては貰えまいか、仁琉殿」

噂の主は…仁琉だった。
先日の騒ぎは、詳細に延王に伝えられ、延王自身が彼を欲したらしい。
民の反応は、複雑だった。
官になって、自分たちを導いて欲しいと思うのと同時に、
あの乱を一緒に起こした仲間と離れてしまうのは…寂しかったのだ。
当の仁琉にしても、ソレは同じこと。
苦楽を共にした仲間と離れるのは、身を切られるように辛い。
だが、その仲間の為に官になり、手助けしてやる事も出来ない事ではないのだ。

「もう少し、考える時間を頂けないだろうか…使者殿?」
仁琉は今の気持ちを素直に口にした。
「そう言われる事を予測して、延王からの言付けだ。
『ひと月の猶予を与える。ソレまでに悩みぬいて…俺の所に来い』
だ、そうだ。…色良い返事を待っているぞ、仁琉殿」
使者はそう言い残すと、街の雑踏に消えて行った。
「ひと月か…。長い様で短いな…。」
仁琉の、眠れない夜が始まろうとしていた。


月明かりの綺麗な夜…ふか商の屋根の上に、人影が転がっていた。
「官か…。」
あの話を聞いてから、由弥は考え込むのが多くなった。
普段、のー天気なおバカな奴が思慮にふけると、不気味である…。
ふか商のメンバーは、
「天変地異が起きるかもしれない!?」
「どっかの国が沈むんじゃねーか?」
「いや、狸先生が女になるんだよっっ!!」
と、訳の分からない不安に慄いていた。

「ふぅ…」
赤い布の巻かれた羽扇…それに月明かりを映しこみため息をつく…。
もう、何刻ぐらいそうしていただろうか…。
「ねぇ…いい加減、話なさいよ。」
「へげっっっっ!?」
いきなりの呼びかけに、心臓が飛び出すほどの驚きで振り返ると…
真勇が、横に座っていた。
「も・も・も・も・も・も・元締めっっ、どうしてココにっっ!?」
「どもってるし…。さっきから居たわよ、あたしは。」
しれっとした顔で、真勇は言葉をつなげる
「かいちょーが、ガラにもなく考え込んでて気が付かなかっただけでしょ」
「ガラにもなくって…おいらだって、考え込む時だってあるぞ」
懸命に反論するが、焦ったままの尻尾は…逆立ったままだった。
「その羽扇に、関係ある見たいね。」
真勇は、なんと無しに羽扇の柄を持ち、由弥の手から取り上げようとした。
「だめっっ!!」
由弥は、羽扇を取られまいと、刃をきつく握り締めた。
いつも、真勇には頭の上がらない由弥の思いもかけない怒気と、
刃を握り、血をしたたり流す手を見て、真勇は吃驚した。

「ごめん…大声出して…。」
先に謝ったのは由弥だった。だが、血に染まった手には、しっかりと羽扇の刃が握られていた。
「…そんなに、大事な物なのソレ?」
「やっぱり…ソレが関係あるんだ?」
「とりあえず…手当てしに、下に降りよ?」
真勇の問いかけに、由弥は頷くだけで返事をした。


手のひらにクスリを塗り、布を巻きつつ…真勇は言葉をつなげる。
「ねぇ、かいちょー。1人で悩むよりは、誰かと一緒に考えた方が良いかもよ」
「え?」
「最近の考え事だよ。あたしには言えない事?」
「そんな訳じゃ…なぃ。」
「かいちょー…あたしは、頼りにならないかな?」
「そんな事…ないよ。」
「悩んでるなら、手助けしてあげたいんだけど?」
「元締め…ありがと…」
真勇の心遣いが嬉しかった…由弥は、今までの事をぽつり・ぽつりと話出した。

「…って言うわけだ…。なんか、嬉しい筈なのに、胸の奥が痛いんだよ…。」
全てを黙って聞いていた真勇は、ため息を1つつくと、一言いった。
「かいちょー…実は、乙女な奴だったんだねぇ…」
「はぁ??」
真勇の唐突な言葉に、由弥は気が遠くなった。
「それってさー、○(自主規制)じゃん。ソレも、かなり末期。
気が付かないのも、かいちょーらしいけど…ね。」
「そんなんじゃねーよっっ!!これは…ん……そう、憧れだよ、憧れっっ!!」
「はいはい、そんなに興奮すると…貧血起こすよ」
そういった時には、既に由弥は、眩暈に襲われていた。
「憧れでも何でも良いけど、このままでいい訳?『前向きに行こうぜ!』って
言ってるのは誰だっけ??」
「うにゅ…。」
「このままで良いなら、何にも言わないけど…
そんなかいちょーなら、ここにはいらないからね」
真勇は、すっと立ち上がると薬箱を片付け、去り際に
「もう少ししたら、延に行く用事あるから…一緒に来るなら来なさいね」
良い残すと、自室に帰って行った。
「元締め…」
取り残されたプレーリーは、今しばらく悩み続ける事となる…。


「おーい、本決まりらしいよ。この前の商店主の話っ!」
あの日から1週間程たった日の事だった。
今度はオカピが話を聞いてきたらしい。

「友達が、あの港街に住んでるんだけど…噂の人が承諾したらしいよ」
「へー」
「出世だねぇ〜」
「で、店を閉めるんだけど、感謝祭やるんだって。
安く品物出したり、武器作ってくれるらしいよ!!」
「へー、感謝祭って事は…安売りだよねぇ…仕入れの好機?」
「そう思うよねー!!」
店の中は、安売りの話で盛り上がっていた。

「その仕入れ、あたしが行くから。」
真勇は、そう言い遺すと奥に下がった。
「元締め…この前から、ご機嫌斜めさん?」
「ソレを言うなら、かいちょーは、超絶不調だよ」
「うん、だっておやつの時間になっても来ないもん」
「いつもなら大好物の『シナモン爆量アップルパイ』にも、
手をつけてくれないの〜(〓_〓;)」
常にポット片手の三毛猫のひげが、不安そうにうなだれている。
「なんだかねぇ」
「本当に…なんだかねぇ」


「元締め…ちょっとお話が…」
その夜、真勇の部屋に近づく人影があった。
「答え、出した?」
「とりあえず…もう一度、逢いたい。」
「それだけ?」
「それ以上、おいらには…まだ無理。」
「仕方ないな…ま、良いでしょ。これ、持って行きな。」
真勇の手には、重硬皮が2枚乗っていた。
「へっ?」
「武器作って貰うなら、すんなり顔出せるでしょ。」
「銭、ないっす…」
「会員割引で5割に負けてやる」
「元締めっっっ」
ほの暗い部屋灯の下、感謝と安堵に溢れる2人の姿があった。


『今、この俺に出来る最大級の事をやろう』
それが、仁琉の出した答えだった…。
仲間との別れは辛い…だが、己の行動がこの好機を生み出したのは確かな事だ。
ならば、この好機を掴んで見ても良いのではないか…。
この国を、全てを見渡せる場所から見て見よう。
ドコまで出来るか分からない。だが、王直々に欲して貰ったのも事実だ。
ならば…自分の強運にかけて見る。
仁琉の答えは…未来を見据えていた。

「閉店記念・感謝祭をやります」
店頭にこの張り紙が出たのは…翌日だった。


                         〜〜つづく〜〜

ふか商18000打踏み抜き記念です(笑)
踏み抜いた仁琉さんからのリクもあり、書いているんですが…
短く纏める事も出来ずに、もう少し続いたりします。
あぁ、リクして下った仁琉さんと読んでしまった皆様が
ガッカリしないようなものにせねば…。
でも、ラストは…ほほほのほ。…ってことで。         由弥


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