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『出会い』〜憧れが生れ落ちる瞬間〜     by由弥


あの人を見かけたのは、雁国の港街だった。
巧国から船で入国し、1人でぶらぶらしていた時…

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「お上に俺たちの気持ちを伝えなくてはいけないと思う」
港街に響き渡る声。何かと思って覗いてみたら…
細身の男が観衆に向かって、訴えていた。

「何かあったんですか?」
疑問を素直に口にする。横にいた老婆が事の成り行きを教えてくれた。
『豊かな雁国でも、隅々まで目が行き届いている訳ではないんだよ。』

何を言っているんだろう?この雁国で、そんなわけがないじゃないか。
500年続く大国『雁』。荒廃した大地は緑の山野となって生まれ変わった。
目が行き届かない場所があるような国が、500年も持つ筈がないのに…。

『でも、ドコにでも綻びは落ちいてるものさ』
老婆は話を続ける。
『確かに国は安定しているがね…王に隠れて悪さする小悪党がいるのさ。
民の願いを聞き流し、都合の良い事しか言わない郷長…。
旅の人だから言うが、ここで上に願いを嘆願しても、
都合の良い事や関係ない事しか通りはしない…。本当の民の願いは…王には届かないのさ』

「待ってください。この豊かな地に『願い』なんて存在するの?」
巧国の現状を知るおいらにとって、ココは蓬山のように穏やかに見えていた。
そんな場所に、『願い』なんて…ピンとこない。
そう、実感がわかないのだ。
『ココに住めば分かる…一瞬を通り過ぎる旅人には分からずとも、
そこに根を下ろす者にとっては…大切な願いなんじゃよ』
老婆は、そこまで話すとため息を1つついた。

「おばあさん、あそこで話してる人って…偉い人なの?」
視線だけで、演説している男を示す。
『あぁ、彼は仁琉殿じゃよ。普通の商店主じゃね。ただ…』
「ただ?」
『ただ、彼は郷長に目を付けられておる…。
己の意思をしっかり持ち、民を引いて行ける「徳」を持っておる漢じゃ』
「ふーん、偉い人ではないけど、凄い人なんだ?」
『上手い例えじゃな。ほほほ、そう言う事じゃ。ただ、それだけに…』
「目障りなんでしょ、上の方としては?」
『聡い子じゃの。どこでも、出る杭は打たれるものなんじゃが…
あ奴は、打たせたくないのぉ。』
そして、老婆は声を潜めこう付け足し去って行った。
『コレは、わしの願いじゃが…王の元でわれらを導いて欲しいものじゃな』


「1つ2つの願いで届かないなら、1度皆で意見を纏めて『民の総意』を届けよう。
まず、俺たちの気持ちを届けなくては…何も変わらないんだ!」
男の訴えに、遠巻きに見ていた者達も演説の輪に引き寄せられる。
「まずは、自分たちでできる事からやって行こう。
ソレがココを良くする1歩になると思う」
男の言葉は、誠実味と湧き上がる勇気を持たせる高揚感を併せ持つような
不思議な旋律を持っていた。

〜良い長(おさ)だな。〜
おいらは、その演説をなんとも無しに聞いて、直感で思った。


「誰の許可を得て、この場に集まるっっ!?」
沸き立った高揚感に、いっぺんに浴びせかけられる冷や水の様な叫び…
郷長の親衛隊だ。
隊長だろうか?がっしりした体の男が、まっすぐ輪の中心に居る男の元に向かう。
「懲りない男だな、仁琉?何度やっても同じ事だ」
「民の総意を、そう何度も握りつぶせると思うなよ?」
「なにぃ!?言わせておけばっっっ!!」
親衛隊の太刀の切っ先が、弧を描いて男に降りかかった。
カキーン
太刀筋は飛んできた羽扇によって、男からずれた。
「こっち…」
男の手を引き、おいらは滑るように街中を走った。
「お前は…誰だ?」
「んなこたぁ、今関係ないでしょっ!死にたくなきゃ走りなっ。」
巧で役人から逃げ回ったのが、こんな所で役に立つとはね…。皮肉なもんだ(笑)

「まてっ!」
路地裏で前後を塞がれる様に、囲まれた。
〜ヤバいなー、羽扇さっき投げちゃったよ…仕方ない、飛刀使うか…〜
「待てって言われて待つ莫迦がどこに居るのさ?」
喧嘩は熱くなった方が負け。おいらの持論である。
「言わせておけば…小娘がーー!!」
〜全部で3人、何とかなるかな?〜
「兄ちゃん、動くなよな?さくっと終わらせるぜ!」
実践積んできた逃亡者を舐めんなよ、木っ端役人(笑)
1人…2人……3人………殺しちゃまずいから、峰打ちで…と。
「あー疲れた、兄ちゃん無事かい?」
「後ろっ!!」
「へっ?」
振り向くと頭上に煌く、槍先…
〜しまったっっこの位置じゃ、頚動脈一発っっ!!〜
覚悟を決めたのに、いつまでたっても血が流れない…?
目を開くと…男の太刀が槍の柄を切り飛ばしていた。
そして…慌てて逃げて行く役人たち…。
路地裏は、静けさを取り戻していた。

「あんた、刀使えるんだ?」
「仕入れに街道を歩くからな。護身術だよ」
男は優しげな微笑をあたしに向けてくれた。
「そう言うお前こそ、戦いなれて要るようだが?」
男の問いにふと、表情が曇ってしまう…。
「おいらだって、好きでなれた訳じゃないさ。必要に迫られただけだ」
ぶっきらぼうに答えるおいらの頭に、おおきな手を乗せなでた。
「何すんだよっっ!」
慌ててその手を跳ねのけ、睨もうと見上げると
さっきと変わらぬ笑顔で、口を開く
「お前の名は?」
「由弥〜よしや〜」
「由弥か。俺の名は…」
「仁琉さんでしょ?さっき街の人に聞いた。」
睨もうと思ってたのに…あの笑顔を見ると…どうも調子が出ない。
「雁の国の者か?」
「うんにゃ、巧だよ。訳アリでね」
他愛の無い身の上話を、繰り広げた。
「雁は良い国だね…巧や慶の人々が何で焦がれるか分かる気がするよ」
「…」
「仁琉さん?」
「…」
「なんか、悪い事言ったかな…おいら?」
無言の男に目を向けると…男は郷城を見据えて答えた。
「いや…ただ、住めば色々見えてしまうもんなんだがな…」
先ほどまでの優しい笑みは消え、瞳には強い意思が覗いていた。

「あんたなら、上手く皆を引っ張っていけると思う。」
「かい被りだ」
「半獣の勘を舐めるなよ(笑)」
「ほー、由弥は半獣か?」
「あぁ。海客の娘さんが言うには『ぷれーりーどっく』とか言う奴みたいだよ。
ずっと、太りすぎの栗鼠だと思ってたんだけどね。」
狭い路地裏に、笑い声が2人分響き渡った。


「…さてと」
おいらは、あたりを見回し1つ伸びをした。
「もう行かなきゃ。」
「道中、気を付けてな」
「そっちこそ…諦めんなよな」
「勿論だとも」
「応援してる。」
すっと、右手を差し出してみた。別に意味はなかった…ただ、なんとなく…。
「ありがとう。」
男は、何の躊躇もなく出された右手を握り返してくれた。
「じゃ…」
くるりときびすを返し、歩き始めようとした時だった。

ドスッ
足元に、先ほど投げて行くえを見失った愛用の羽扇が突き刺さった。
「その持ち手じゃ、手を傷める…応急処置で俺のコレ巻いといてやったぞ」
男は頭の赤い布を指差し、ウィンクして見せた。
「感謝。…じゃね!」

なぜか胸の動悸が激しい…体温が上がって、顔が「ほてほて」してしまう。
これ以上、男の笑顔を見ていたら、動けなくなってしまうような気がして…。

おいらは、ソレを拾い上げると極上の笑みを残して、走り出した。

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あれからひと月…雁国内を放浪していたあたしの耳に、うわさが届いた。

『どこかの港街の郷長が、民の糾弾にあい…王から直々に罷免されたそうだ…』

〜とうとうやったんだ…おめでと。〜
あたしは…あの時から一番の宝物になっている赤い柄の羽扇に、微笑みかけた。


                
                〜〜〜〜

のお話は、由弥さんからキリ番を踏んだプレゼントとして頂いたものです^^
「何がいいですか?」と聞かれ
「モチロン、憧れの仁琉さんとの出会い
(ひひっ)」と即答。
そしたら由弥さん、なんと1日で創作して下さいました!
こ、これはワタシ一人で堪能するのは、もったいないオバケがでるワ!
ということで、恥ずかしがる由弥さんを無視し(笑)小部屋を設置しました^^
・・・・しかーし!それだけではないのです
(ニヤ)
作品を読んだ真勇さんが続きを書いて下さったのです!
そこでまたおののく真勇さんを締め落・・いえ、説得し、
おひろめするコトにしました^^
でわ、続きをどうぞ〜〜
                     颯紅


      第二章              by真勇


トンテンカンテン……
最後の釘を打ち終わった由弥は、
誇らしげに頭上の看板を見上げた。
【ふかふか商会】
徹夜の突貫工事で作り上げたにしては、
事務所はなかなかのできばえである。
「おーい、みんな、できたぞー」
「わー、すごーいすごーい」
「ここが今日からあたしたちの……! 嬉しい」
 シッポをピンと立て、
嬉しげにあちこちを見回る仲間たち。
早々と自分の居場所を決めて寝そべるピンク色のウサギ。
お茶を入れようと、ポットを片手にバタバタ走り回る三毛猫。

紫色のスカーフを首に巻いた黒い犬が、
由弥に話しかけてきた。
「ふかふか商会っていい名前だね」
「だろ? おいらもそう思うよ」
「商会ってことはさ、今日から由弥、会長だからね」
「えっ、おいらはそんな柄じゃないよ。看板職人でいいよ」
「だぁめっ。もう決めたの」

半獣同士、背格好は似たようなものなのだが、
どうもこの黒い犬に対して、
なぜか由弥は頭が上がらない。
しかし、その気持ちは決して嫌なものではなく、
心強さと頼もしさを感じさせるのだ。

半獣に生まれたことを、
由弥も仲間たちも、誰ひとりとして悔いはしない。
むしろ誇りにすら思っている。
しかし、その血ゆえに差別され、
戸籍すら持てぬ同胞も他国には多いのだ。
(半獣の存在を認めない奴らに、
認めろって強制してもダメなんだ。
おいらたちが自分で動いて、
『半獣の総意』を届けなくっちゃ)
(まずは、自分たちでできる事から
やって行こうって、あの人も言ってたしな……)

そんな由弥の想いを知ってか知らずか、
黒い犬がにやりと笑った。そして叫んだ。
「みんな〜、お祝いに会長の胴上げしよ〜」
「わーい胴上げだー」
「よーし、落としちゃおうぜー」
「おいっ、こらっ、よせよっ、うわっ」


笑いさざめく半獣たちの姿に、
街の人もいつしか心をほぐされていく。
仕入れ中とおぼしき、通りがかりの男も足を止める。
雁の商店主だろうか。
開いているのか閉じているのか、
まったくわからない糸目が、ふうわりと細められた。
どうやら微笑んでいるらしい。
「ん、あの娘か……」
赤い頭巾の端に指先ですっと触れ、男は再び歩き出した。
「がんばれよ……」

「そーれもういっちょう!」
「きゃっきゃっ♪」
仲間たちのやわらかい肉球に何度も受け止められながら、
空中に放り出される由弥。
プレーリードッグのヒゲが、平和な風にそよぐ。
今やすっかり由弥のトレードマークになった、
赤い耳出し頭巾も揺れる。
(仁琉さん……おいら、あなたの後に続くよ……
だから、いつかきっと、また……)



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